土佐錦魚解説

土佐錦魚とは

土佐錦魚とは
白勝ち更紗の三歳魚
 土佐錦魚「とさきん」は、金魚の品種の一つで、土佐の国(現在の高知市)で独自に品種として確立され、今に伝えられている純粋な国産金魚です。その優美さから金魚の女王と称される事もあります。

 高知県の天然記念物であり、同じく県の天然記念物として認定されている金魚の「島根県のいづもナンキン」、「愛知県の地金(六鱗)」とともに、日本の3大地金魚としても知られています。
 
土佐錦魚の形体
褪色していない三歳魚
 形体的な特徴的としては、際立って大きな尾を持っている事で、左右両端からは前方に柔らかく反転し、後方は扇のように水平に広がる独特の尾型をしています。
 体型は琉金に近い卵型ですが、目から口先にかけて細く尖るため、特に良魚は上品な印象を持っています。その姿態から泳ぎはゆったりとしていて、柔らかな尾を左右にふるわせて優雅に舞う姿は、牡丹の花に例えられるほどです。

 体色は赤、赤白(更紗)、白、黄金とありますが、他の金魚に比べて非常に色変わり(褪色:たいしょく)が遅いため、3年以上の親魚でも黒いものは珍しくありません。

 近年一部には流金との交配などで、尾の反転が弱く褪色が著しく早いものや、キャリコ土佐金などの交配種が見られますが、品種としては全く異なるため、これらとは明確に区分して別に扱われています。
 
土佐錦魚の名称について
 土佐錦魚は、他の金魚と異なり、「錦魚」の文字をあてて「とさきん」と呼び称されています。
 一般向けの金魚飼育書などでは、「土佐金」や「土佐錦」、あるいは「トサキン」と表記されているものもありますが、作出者の須賀家に伝わる江戸時代後期の文書「土佐錦魚元祖」にも、「錦魚」の文字が使われている事、その後も高知では一貫して「土佐錦魚」と呼ばれている事(昭和初期の品評会番付表にも「土佐錦魚」の文字が残っています)から、現在では品種名として、一般にも「土佐錦魚」と称されるようになっています。

土佐錦魚の性質と飼育の特徴
丸鉢での当歳魚の飼育
丸鉢の縁に沿って泳ぐ稚魚

イトミミズの塊(左:輸入品、右:自家採取)
プラ舟での二歳魚以降の飼育
 南国の高知市で育成された事からか、非常に高温に強い体質を持っています。特に夏場の高温では、40℃でも耐えられる例もあり、「太陽の子」とも称されています。ただし、生育に好適な水温は、他の金魚と同様20℃前後ですので、あえてヒーターなどで高温にして管理する必要はありません。

 また、一方で、他の金魚同様に、水面が凍るほどの冬季の低温でも耐える事が出来ます。
 飼育条件としては、十分に日照の確保できる戸外での飼育を基本とすると、健康で発色の良い魚を育てることが出来、飼育の失敗も少なくなります。

 水質に関してはpH8程度の弱アルカリ性を好むとされています。らんちゅうや地金とは異なり、植物プランクトンの繁茂した青水で飼育される事はなく、新しい透明な水を好む金魚です。そのため他の金魚には無い特徴として、「飼育槽でも鑑賞できる金魚」と言えます。


 土佐錦魚の飼育方法として特徴的なものに、「丸鉢」と呼ばれるコンクリート製の飼育槽を使うことがあげられます。この丸鉢は、直径60cm、水深18cmのすり鉢型かお椀型で、1年目の「当歳魚」と呼ばれる土佐錦魚の飼育に限って用いられます。
 稚魚は円形の容器に入れると、縁をぐるぐると泳ぎ続ける習性があります。この泳ぎがあの大きな尾を支える骨格の基礎を作る事となり、見事な反転に耐えられる尾の形成には欠かせないものです。
 二歳魚以降は他の金魚と同様に四角い容器で飼育されますが、水深は20cm程度と浅めのものが適しています。

 また、餌には生きているイトミミズ(イトメ、アカコとも呼ばれる)を用いる事が良い姿を保つために必要だとされていて、当歳魚では、品評会を目指して飼育する方のほとんどはこのイトミミズを餌に用いています。
 なお、二歳魚以降は人工飼料を与えて育てる方法が一般的です。

 土佐錦魚は他の金魚に比べても、非常に人に慣れ易く、餌を求めて寄って来る様は愛嬌があり可愛いものです。ただし、他の金魚同様に、1尾のみを別にした飼育では怯えて落ち着かなくなるので、同様なサイズの土佐錦魚のみを、複数で飼育するようにします。

 これまでは、土佐錦魚に適した飼育方法が十分に伝わっておらず、体質も強健ではなかったため、店売りされているものが既に体調を崩しているような事もあり、購入後にすぐに死なせてしまうなど、一般には最も飼育の難しい金魚とされてきました。
 しかし、近年では愛好家による飼育技術の公開や研究会活動の活性化など、飼育方法も広く知られるようになった事に加えて、物流も発達した事から、体調の良い魚が比較的多く流通するようになっています。

 土佐錦魚は、確かに換水の遅れによる水質の悪化や、餌のやりすぎには注意が必要で、また、泳ぎが下手なため他の品種との混泳も避ける必要がありますが、基本通りに戸外で飼育すれば、初心者でも繁殖が可能で、充分に楽しめる金魚と言えます。

丸鉢ライン

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