タマミジンコの殖やし方(餌としての培養方法)

タマミジンコの有用性
顕微鏡で横から見たタマミジンコ 水面に群れるタマミジンコ 爆発的に増殖するタマミジンコ
顕微鏡で横から見たタマミジンコ  水面に群れるタマミジンコ 爆発的に増殖するタマミジンコ
 金魚の稚魚用飼料として、古くから用いられてきたミジンコですが、中でもタマミジンコは他のミジンコに比べて体表面の殻が柔らかいのが特徴で食べやすく、最良のミジンコと言われています。
 イトミミズと比較して顔が悪くなるとの説もありましたが、うちで比較実験をする限り、タマミジンコの方が逆に顔の尖りが良くなっているので、土佐錦魚に与える場合でも全く心配は無用です。
 また、泳ぎ回るタマミジンコは稚魚の食欲もそそり、食味もイトミミズより良いようで、同時に与えればタマミジンコを真っ先に食べてしまいます。
 さらに、タマミジンコは他のミジンコに比べて非常に増殖しやすく、餌用に自家養殖するのであれば、最もお勧めのミジンコと言えます。
タマミジンコの生態
背中の仔虫が透けて見える親虫 水面に浮いた「耐久卵」(2個入り)
背中の仔虫が透けて見える親虫 水面に浮いた「耐久卵」(2個入り)
低酸素状態では赤くなるタマミジンコ 通常は透明なタマミジンコ
低酸素状態で赤くなるタマミジンコ 通常は透明なタマミジンコ
 タマミジンコ(玉微塵子)は、学名をmoina macrocopa(モイナ)と言い、体長は1mm前後です。
 通常は雌のみが存在し、雄と交尾することなく、単為生殖で子(娘)を産んで増えていきます。条件が良い場合には生後7日で子を産むようになり、2日おきに数十匹の仔虫を産み、数週間から数か月生きるとされています。
 仔虫は親の体内で孵化して生まれてきますが、タマミジンコの名前の由来となっている通り、親は成熟するにつれて、背中に数多くの仔虫を抱えて体型がより丸く大きくなります。
 なお、水質の悪化など生育が困難な状況になると、雄が産まれ、これと交尾することによって、低温や乾燥にも耐えられる白い「耐久卵」を産むようになります。
 また、通常の体色は透明で、消化管や血液の流れも透けて見えることから、教材として実験材料としても用いられます。
 ただし、低酸素状態で増殖が進み密度が上がってくると、血液中のヘモグロビンを増して酸素を効率的に利用できるように自らを変化させ、外見的にも赤く色付いてくるので、大量に培養するとオレンジ色に見えるようになります。
タマミジンコに適する増殖環境
220Lプラ舟での培養 モルタル丸鉢での培養
220Lプラ舟での培養 モルタル丸鉢での培養
 ある程度の低酸素条件には適応できるタマミジンコですが、人工的な閉鎖環境における大量増殖には、まずは十分な溶存酸素量が必要となります。
 タマミジンコは水流に弱いため、うちではエアーレーションは行わず、風通しの良い屋上に雨ざらしの環境で培養しています。
 そのため、飼育容器は、水量が多く水深の浅いものが適していて、うちでは220Lプラ舟が最も順調に増殖・維持できる容器となっています。なお、写真のように丸鉢での増殖も可能です。
 成育適温は25℃前後ですが、10〜35℃の範囲で増殖が可能です。高温にもかなり耐えることができ、日除けの板をかけておけば土佐錦魚と同じく40℃までは耐えることができます。
 水質はpH7〜8の範囲では、安定した増殖を行います。青水が進みすぎるとpH9を超えて急に死滅するので、薄い青水か透明な状態を維持することが必要です。

タマミジンコの培養の準備
移した古水(薄い青水)でスタート  室内で培養している種ミジンコ
移した古水(薄い青水)でスタート 室内で培養している種ミジンコ
 土佐錦魚の越冬時の古水(薄い青水)は、土佐錦魚を起こすと同時に薄めていくこととなるので、これを捨てず220Lプラ舟に移して、タマミジンコの培養の種水とします。
 種水は必ずしも青水となっている必要はありませんが、植物プランクトンの存在は、タマミジンコの餌としても、安定した水質の維持にも役立つこととなります。
 水温が15℃前後に安定した状態となる4月上中旬に、これに種ミジンコを移して、培養がスタートとなります。
 この時に一定程度の数の種ミジンコが必要となりますが、うちでは室内の小型のプラケースで維持しているものを用います。
タマミジンコの餌
ドライイースト(乾燥酵母) ドライイーストを溶かすための容器 
ドライイースト 必ず水で溶いてから与える
 餌は、ドライイースト(乾燥酵母)のみを与えます。タマミジンコは空腹に弱く、24時間餌を摂取し続けているので、朝夕の2回必ず与えます。 
 給餌量は増殖のスピードに応じて変えますが、早朝の水面に浮かぶ程に増えてくると、水量20Lに対してドライイースト1gで固定します。
 ドライイーストは、開封前は常温で保管していますが、開封後は冷蔵庫で密封した瓶に入れて保存します。
 餌として与える際は、溶けにくいので、必ず水に溶いてから与えますが、密封できる広口の容器で振り混ぜると簡単に溶けます。
タマミジンコの日々の管理
壁や底のコケはそのまま 雨で流れても気にしない・・・。 
壁や底のコケはそのまま 雨水であふれても気にしない・・・
 タマミジンコの管理としては、餌を与える他には、基本的に何もしません。
 増殖に伴って、青水は透明となり、代わりに壁面や底面にコケが付くようになりますが、水質の安定のため、コケはそのまま付けておくようにします。
 また、赤虫(ユスリカの幼虫)など、水生昆虫が同時発生しますが、大量に発生しているタマミジンコのおかげで、それほど密度は上がらないので、うちでは放置しています。
 雨が続くと、溢れ出す水とともにタマミジンコが流されるので一時的に密度が低下しますが、雨は降り込むに任せておきます。戸外では青水化が進みやすく、次第にpHが上昇しますが、雨が降り込むことで水質は酸性に傾き、pHを下げる効果が期待できます。
タマミジンコの採集
採集したタマミジンコ 水面で渦を巻くタマミジンコ 
採集したタマミジンコ 水面で渦を巻くタマミジンコ
 タマミジンコは、日中は底の方へ潜って、夜間は水面に浮かぶ性質があります。この性質は水中が酸欠状態になると一層顕著となり、湿度が高く風の無い小雨の朝などは、特に多くの量が水面に渦を巻くようになります。
 そのため、採集は早朝に行うと掬いやすく、水中に浮遊するコケ等を掬うことなく簡単に多量のタマミジンコが採集できます。
 タマミジンコは振動などに驚くと水中に潜ってしまうため、採集はあまり水面を動かさないように留意します。
 なお、タマミジンコは光に集まる性質があることから、夜間に懐中電灯で照らして集め、これを採集することもできますが、この方法は明るい状態では実施できないため、夕方の採集が課題です。
タマミジンコの用い方
針仔と同居させて水の傷み対策に 親虫と生まれたばかりの仔虫達
針仔と同居させて水の傷み対策に 親虫と産まれたばかりの仔虫達
稚魚には泳がせる効果 産卵前に与えると産卵促進効果 
稚魚には泳がせる効果 産卵前に与えると産卵促進効果
 タマミジンコは、水中のプランクトンを捕食していて、見た目に濁っている水も透明に換えるほどの浄化作用を持っています。
 稚魚のサイズが小さく針仔の時には、水が汚れても容易に換水ができないため、ここにごく少量のタマミジンコを同居させることで、水の傷みを防ぐ効果が期待できます。
 同居のタイミングは、ブラインシュリンプの初回の給餌後とし、万一ブラインシュリンプの食べ残しが生じて水が傷むような場合でも、タマミジンコが処理してくれるようにします。
 また、数日もすれば、タマミジンコの仔虫を稚魚が食べるようになり、補助飼料としても活躍してくれます。
 タマミジンコの仔虫は、ブラインシュリンプより少し大きい程度で、よく泳ぐので食欲をそそるようです。
 また、稚魚に与えることで、稚魚は必死に追いかけて食い付くようになり、自然と良く泳ぐようになります。土佐錦魚は稚魚の時期によく泳がせることが大切なので、この点でイトミミズよりも優れた餌と言えます。
 また、タマミジンコは殻が柔らかいためか、非常に消化が良いようで、翌日の糞の状態からも見て取れます。
 そのため、特に産卵期の魚に与えると、成熟を促す効果が高く、雌は抱卵していれば直ぐにでも産卵し、雄も状態の良い精子を出すようになります。
 
タマミジンコの与え方
孵化後2週間で親虫を食べる 1鉢の丸鉢への給餌量の目安 
孵化後2週間で親虫を食べる 1鉢の丸鉢への給餌量の目安
 タマミジンコを餌として与えるには、当然ながら稚魚の口に入るサイズとなりますが、タマミジンコは殻が柔らかいため、稚魚は意外と大きなものも食べることができます。
 孵化後2週間程度から与え始めますが、この頃の稚魚は自分の目玉より大きなサイズの親虫も食べてしまいます。
 また、丸鉢の稚魚は、サイズによって尾数が異なりますが、総体としての給餌量はあまり変わりません。
 うちでは、朝夕の2回与えていますが、1鉢に対する1回の給餌量は、親指の爪くらいの塊の量として、朝は多めに、夕方は少なめに与えています。
 タマミジンコはイトミミズとは異なり、直射日光で腐るようなこともなく、鉢の中で長時間生き続けるので、与えやすい餌と言えます。
 
タマミジンコの見分け方
横見のタマミジンコ:左とミジンコ:右
横見のタマミジンコ:左とミジンコ:右
ケンミジンコ:左上♂・下♀とミジンコ
ケンミジンコ:左上♂・下♀とミジンコ
カイミジンコ
カイミジンコ
 タマミジンコの他に、最も目にする機会の多い類似のものとしては、ミジンコ、カイミジンコ、ケンミジンコが挙げられます。

 タマミジンコは、水田や蓮田、水が停滞し富栄養化の進んだ用水路など、水中のバクテリア数の多い場所で一般的に見られますが、ミジンコは、水田の他は貯水池で多く見られ、水中のバクテリア数の少ない所に生息する傾向があります。
 肉眼での見分け方としては、タマミジンコが体長1mm程度で、上部から見ると、頭以外はほとんどまんまるのテントウムシ型をしていますが、ミジンコは体長1.5mm程度で、やや大型で細長く、素早く泳ぎ、どちらもピンッピンッと規則的に進みますが、タマミジンコの方が一回で進む距離が短く、ミジンコに比較するとややゆっくりと触角で水をかくように泳ぎ続けます。
 タマミジンコもミジンコも、子供のうちは違いが分かり難いものですが、タマミジンコの雌の場合は成熟が進み背中に仔虫を抱えるようになると、徐々に丸みを増してきます。
 また、タマミジンコは耐久卵が白く、ミジンコは黒いため、これを持っている状態のものを見れば、簡単に見分けがつきます。
 なお、タマミジンコの雄は細長いため、体型だけを見ると、肉眼ではミジンコとあまり変わらないようにも見えるので、やはり泳ぎを見て見分けます。
 採集したものがミジンコであった場合などは、サイズも大きく殻も硬いため、二歳魚以上の餌として用いるのが良いと思います。

 
一方、このうちで最も小さいのがケンミジンコです(2枚目の写真の目盛りは0.5mm)。他と異なって細長い尾を持つ形状で、直線状の素早い動きからすぐに判別できますが、餌としては適していないどころか、他のミジンコ類を食べてしまう雑食性のため、培養においては侵入を警戒する必要があります。
 写真の2匹のケンミジンコは、ともに左下が頭部で左下に向かって泳ぎます。少し見えにくいのですが、頭からは水平に横に張り出した2個の長い触角を持ち、カブトエビに似た細く先が2つに分かれた尾を持っています。
 右上に写っているミジンコやタマミジンコとは異なり、常に雌雄が別に存在し、雌には尾の両側に卵嚢が見られます。

 
これに対して、カイミジンコは持続的にスムーズに泳ぐので、簡単に見分けが付きますが、分類上はミジンコの仲間ではなく、食性も肉食性で異なっています。殻も固く餌には向かないので、発生しないように注意します。

丸鉢ライン

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